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びぜんめいきゅうでん

備前名弓伝

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页

青空文庫

三之丞はお座興、慰みのために弓道を学びはいたしませぬと」「青地、貴公それは本心か」使番が吃驚して眼を剥いた。そこへ伯父の三左衛門が、お城から追っかけて馬を乗りつけてきた。

青地三左衛門が使番のあとから追っかけ催促にきたのには訳がある。馬場の見物席にもいず、詰所にもいず、今日は非番だからと云って下城したという知らせを聞いた光政は、三之丞が今日の催しを苦々しく思っているということに気付いた。それで三左衛門を呼び、「今日の犬追い物は当藩弓道の名誉を見せるもので、その成敗は池田家の面目にも拘わるものだからすぐに出仕せよ」という口上を伝えさせたのである。

「そう重ねて上が仰せられるのではなるほど辞退はかないますまい、畏まりました、謹んで参上仕ります」と、今度はあっさり承知した。

馬場の桟敷では光政が安芸守の相手をしながら苛々していた。三之丞が云うだろう理窟はもうおよそ察しているから、わざと念を入れて三左衛門をやったのだが、果して来るかどうかと思うと落着きがない。

「重郎左、ほかに誰かおらぬか」何度もそう訊くが、「三之丞のほかにはござりませぬ」と重郎左衛門の返辞は同じだった。