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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

鉛筆をなめなめ長いことかかって手紙を書いては、磐城の兄へ出していた。

惣次郎は惣次郎で、身を苛む借金ぐらしの重圧に、こんなことなら、力業だけで頑張っていさえすれば、結句気苦労というものもなく、お君の機嫌もよかった炭坑ぐらしの方が、どんなにのびのびと気儘にやってゆけたことかと、しみじみ振り返られもしたが、今ではそれも後の祭で、さっぱりと諦めるよりしかたがない。どうせ村に帰って家を継いだからには、紙漉きをやらなければと惣次郎は考えはじめた。紙の漉けない日傭取が、同じ村の人々にさえ、一段ひくいものにあしらわれることに気づいてからは、余計その決心を堅くした。安斎の旦那に相談をしかけると、そうか、やってみるか。しばらく考えてからそう言って、資本を貸し、道具もあれこれと心配してくれた。

はじめは、鼻紙や屑紙を買い集めての「漉き返し」紙であった。しかし、この村には生れても、その経験のない惣次郎に、おいそれといい紙の漉けるはずはなかった。最初に漉いたのを旦那に見せると、はははは、これでは尻もふけねえぞと笑われた。もっとも、漉き返しの技術はかえって難しいとも言えた。