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ぜんこんどんこん

善根鈍根

佐々木 邦

「オール読物」文藝春秋社、1935(昭和10)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,638 字 · 28 页

青空文庫

「あの時はお前が案内したじゃないか? 三日も四日も」

「意気込みが違っていますわ」

「詰まらないことを言うものじゃないよ」

藤浪君は予定の通り、翌日社を休んで案内役を勤めた。晩に又苦情が出た。公私顛倒じゃありませんかというのだった。貞江さんは前身が新聞記者丈けに、理窟を言い出すと、ナカ/\承知しない。しかし藤浪君は主人の権威で押し切ってしまった。月が改まってから貞江さんが芝居見物を思い立って、同伴を求めた。藤浪君は社務多忙の故をもって断った。又議論が始まって、奥さんの方が勝ちそうになった。社を休んで御親戚のお方を案内して歩く人が妻の為めに一晩の都合のつかない筈はないというのだった。行き詰まった藤浪君は憤る外に仕方がなかった。

「生意気を言うと、打ん撲るぞ」

貞江夫人は芝居見物を思い止まった。藤浪君は流石に気の毒になって、其の後自分の方から申出て連れて行こうかと考えたが癖になることを恐れた。今度ばかりでない。去年あたりから妙に厳重になって、帰宅時刻の正確を強いる。それは求婚時代から新婚当時は御機嫌を取ったに相違ないけれど、いつまでもその積りでいられては困る。