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ぜんこんどんこん

善根鈍根

佐々木 邦

「オール読物」文藝春秋社、1935(昭和10)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,638 字 · 28 页

青空文庫

貞江さんは腕時計を見ながら六年昔を思い出した。時刻もその頃の通り正午きっかり。藤浪君はステッキを振りながら改札口から出て来た。待合室を覗いて目くばせをすると、洋装の貞江さんが立ち上った。藤浪君はもう歩き出して、後から貞江さんが追いつく。

「長くお待ちになりましたか?」

「はあ。つい早く着いてしまったものですから」

「この間は僕が待ちましたから、今日は仇を討って上げようと思ったんですけれど、矢っ張り駄目でした。僕、時間厳守でしょう?」

「オホヽ」

「三谷さん」

「オホヽヽヽ」

「笑っちゃいけない」

二人は役者になって芝居をするのだ。筋書では可なり遠方へ行くことが多かったけれど、差当り日比谷公園で間に合せた。社に近いから、昼休みを利用した思い出が深い。問題のベンチもそのまゝ残っている。そこに辿りついて、昔の通りを覚えているまゝに遣り取りした。藤浪君は所作事丈けを慎んだ。大地に平伏したりすると、ロケーションだと思って、人群りがする。

お昼を喰べないで来たから、歩を転じて、某料亭の一室に納まった。婚約後つれ立って行った部屋が丁度よく空いていたのである。

「貞江や、こゝでは一つ創作を演じよう。