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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

七

「いいえそれには及びません」とかれらはいちように云うのであった、「私は師範代にお願いしてありますから」

七

だが主税介はめげなかった。彼は以前にも増して凛としてみえたし、どんな非難の眼にも嘲笑の声にも挫けるようすはなかった。

こうして年が明け、三月中旬になった或る日、――居宅謹慎が解けたのを祝って、双方五十二人が大林寺に集まって酒宴を催した。これには各支配や組頭も出席したし、諸方から祝いの品が届けられて、たいそうな盛会になった。

同じ日、主税介は非番で家にいた。

彼は朝食のあと居間に茣蓙をひろげ、久しくやめていた笛作りを始めた。一年まえのあの日以来、そんなことは初めてで、午後になってもずっと続け、きげんのいい顔で丸鑿や小刀を使っていた。

夕食を済ませてから一刻ばかり経つと、江木重三郎が訪ねて来た。

「今日、田口さんに会ったか」

重三郎は坐るとすぐに、尖った眼で主税介を見た。主税介は「会った」と答えた。

「それで」と重三郎は云った、「どうする」

「どうするとは」

「精明館を辞任するようにと云われたんじゃないのか」

「いや」と主税介は云った、「辞任したほうがよくはないかと云われたのだ」