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つぼ
壺
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页
秀歌がたくさん載っている。……こういう客は宿へ泊るときまったように名所まわりのあれこれを根問いするもので、婢たちもそれに答えてところ自慢をするのが愛相のひとつになっている、いまもお島は木村外記となのる客が熊野詣でをするというので、なにか訊かれたら知っている限りの話をしようと、給仕の盆を膝にしながら待ち構えていた。けれども相手はそうだと云って頷いたきりなにも云わない、黙ってひっそりと箸を動かしている、べつに肩肱を張っているわけではないが、そのしずかな、音ひとつ立てない食事ぶりは妙に厳粛な感じで、どうかすると尊い儀式でも見るような印象を与えられた。お島はちょっと膝を直したが、とうとう待ちきれなくなったとみえ、「お武家さまはこちらへはたびたびおいででございますか」とたずねた、客は眼もあげずにいや初めてだと答えたが、それなりまた黙って食事の終るまでなにも云わなかった。せっかく話の穂をむけるのにと、もともとしゃべることの好きなお島はいささかむっとしたようすで、やがて、膳部をさげていった。
明くる日は朝からよく晴れた小春日だったが、木村外記は殆んど部屋にこもった