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なつむしあんどん
夏虫行燈
吉川 英治
「婦人倶楽部 別冊付録」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,200 字 · 37 页
二
――これは偽りであろう筈はない』
二
他に、下手人が出た以上、海野甚三郎にはもう、下手人の嫌疑はない。
然し、責任はまだ、充分にある。
それは、真実の下手人を、捕えることだ。人々の意見は、そこで即決を見て、すぐ甚三郎を、切腹部屋から出した。
そして、立会人と共に、すぐお小夜に会わせ、猶つぶさに、彼女の口から、真相を聞き取らせた。
『――では平四郎は、尋常に勝負するなら、青沼の光沢寺で待つといったか。確かに、そう云ったか』
甚三郎は、何度も、お小夜に確めた。
人々も、そこを大事と、耳を欹てた。
お小夜は、有の儘に、
『はい、まだ貴方の死を見ないで去るのが、心遺りのように、確かに、そう云って、逃げ退きました』
と、答えた。
『それっ、すぐ手配をすれば――』
と、役人たちは、先を急いて、すぐそれぞれの支度に急いだ。
討手の人数は、忽ち揃った。
日頃、平四郎と余り誼みのない若侍のうちから、約二十名ほど選抜って、それに、練達な役人が三、四名付き添い――宮崎市之丞を、先に立てて甲府城から馳け出した。
それより一足先に、海野甚三郎と、お小夜の二人が、青沼村をさして、急いでいた。