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おおえどおうごんきょう

大江戸黄金狂

野村 胡堂

「新青年」1939(昭和14)年11月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页

青空文庫

三十五六、色白で、長身で、腐った羽二重、五十日月代、禿ちょろの朱鞘、麻裏を突っかけて、裾を少し摘み上げ乍ら片手の妻楊子で歯をせせっている図は、どう見てもあまり結構な人柄ではありません。

「勘弁しておくんなさい、その朱鞘が目に入らねえほど面喰って居たんで」

「ハテネ」

赤崎才市はプッと楊子を吐きました。

「ところで御用は? 旦那」

「外じゃねえ、手前がツイ今しがた、小僧の手から受取った手紙があるだろう」

「ヘエー」

「お易い御用だ、ちょいとそれを見せてくれ」

「お易い御用じゃありませんぜ、旦那、一生に一度の女運をさらわれた日にゃ、あっしは浮ぶ瀬が無くなりまさア」

「馬鹿だなア、――女運だと思ってやがる、そんな気でうかうかと太閤道へ行くと、運がよくて関所破り、悪かった日にゃ、そのガン首が一ぺんに飛ぶぜ」

「おどかしっこなしに願いやしょう。こんなに見えても、あっしは臆病者で、ヘッ、ヘッ」

「厄介の貝六が臆病だった日にゃ、世の中に肝の太い人間が無くなるよ、――まア宜い、俺を疑うなら、ボンヤリ太閤道へ、行って、その薄汚いガン首を無くして来るが宜い」

赤崎才市は、斯んな事を言って、クルリと背を見せるのでした。