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おおえどおうごんきょう

大江戸黄金狂

野村 胡堂

「新青年」1939(昭和14)年11月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页

青空文庫

樋の下へそれを差出して、チョロチョロと溜る水を享楽する風情でしたが、一杯になると頤の方を持って行って、ガブリと一口、

「――――」

首を曲げて、プーッと吐き出しました。

「あいや、御武家」

後ろから声を掛けられると、

「拙者か」

ギョッとし乍ら、悪びれた色もなく振り返ります。

「その水を呑んではなりません」

六十近い雲水の僧、何時の間にやら飛付いて山浦丈太郎の腕を止めて居るのです。

「御僧、なぜお止めなさる」

「その清水には、毒が投じてござるぞ」

「えッ」

「現にツイ今しがた、その水を呑んで毒に中てられ、重態に陥った旅人がござる。幸い愚僧が通り合せ、木蔭に抱き入れて介抱いたしたが、まだ正気が付かぬところへ、又もや人の気配、驚いて飛んで参ると、御貴殿がその水を呑もうとして居られる」

「忝けない」

「病人はそこの木蔭に寝かせて置いたが、愚僧一人では何んとしても手が及ばない。貴殿も暫く看護って下さらぬか」

「心得申した」

指さす一と叢の木立の中へ、

「御僧、病人は何処で御座る」

「それ、その木の下」

二人は大きな日影を作る木の下へ入りました。が、差覗くまでもなく、其処には何んにも見えません。