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たじゅうとそのいぬ
太十と其犬
長塚 節
「ホトトギス」1910(明治43)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,769 字 · 32 页
三
そうでなくとも稀に逢えば誰でも慇懃な語を交換する。お石に逢う度に其情は太十の腸に浸み透るのであった。瞽女は秋毎に村へ来た。そうしてお石は屹度其仲間に居たのである。太十は後には瞽女の群をぞろぞろと自分の家へ連れ込むようになった。女房は我儘な太十の怒癖を怖れて唯むっつりして黙って居た。然しお石は義理を欠かなかった。其大きな荷物の中から屹度女房への苞が出された。女房も後には其見えない女の前に蕎麦の膳を運んでやるようになった。一つには何処へも出たことのない女の身にはなまめかしい姿の瞽女に三味線を弾かせて夜深までも唄わせることがせめてもの鬱晴しであったからである。
三
或秋のことであった。お石は子犬を懐へ入れて来た。子犬は古新聞へ包んであった。子犬は新聞紙にくるまって寝て居た。懐から出すとぶるぶると体を振るようにしてあぶなげに立つ。悲しげな目で人を見た。目が涙で湿おうて居た。雀の毛を※(「てへん+劣」、第3水準1-84-77)ったように痩せて小さかった。お石は可哀想だから救って来たのだといった。太十は独で笑いながら懐へ入れて見ると矢張りくるりとなって寝た。鍋の破片へ飯をくれたが食わない。