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おんなはおなじものがたり

女は同じ物語

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 页

青空文庫

広一郎はひきさがった。

よろしい、それならこっちも戦術を考えよう、と彼は思った。父はこれからしぼられるだろうし、相当お気の毒さまであるが、それは御自分の茨を御自分で苅るわけである、「よろしい」と彼は呟いた、「戦術を考えるとしよう」

だがその暇はなかった。彼が両親と交渉しているあいだに、紀伊は屋敷から出ていってしまった。それがわかったのは、彼が寝間へはいったときである。夕餉のときも紀伊がみえず、書斎へ茶を持って来たのも、べつの小間使であったし、寝間の支度は安芸という小間使がした。――広一郎は不吉な予感におそわれ、「紀伊はどうした」とその小間使に訊いた。すると、まるでその質問を待っていたように、母がはいって来て、「今日からこの安芸があなたのお世話をします」と云った。

広一郎はかっとなった。

「母上が暇をおだしになったんですね」

「紀伊は自分でいとまを取ったのです」とさわ女は云った、「あなたはまさか、母を疑うほど卑屈におなりではないでしょうね」

広一郎は頭を垂れた。彼もそこまで卑屈になりたくはなかった。紀伊は同じ城下町にいるのである、会おうと思えば茗荷屋へゆけばよいのだ。