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おんなはおなじものがたり

女は同じ物語

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 页

青空文庫

蚊を追うようすもなく、風をいれるようすもなかった。

「――一郎」と竜右衛門が云った、「おまえ暑くはないのか」

広一郎は「はあ」と云った。

「なにを読んでいるんだ」

「三代聞書です」

竜右衛門は「うん」と云った。

「父さん」と広一郎が云った、「あの娘は誰かに似ていると思いませんか」

「――どの娘だ」

「私の侍女です、紀伊という娘です」

「――誰に似ているんだ」

「わからないんですが、誰かに似ているような気がしませんか」

「――しないね、私はその娘をよく見たこともない」と竜右衛門が云った、「おまえその娘が好きになったんじゃないのか」

「冗談じゃありません」

「それならいいが」と竜右衛門が云った、「男でも女でも、相手が好きになると誰かに似ているように思うことがよくある、――人間は性分によって、それぞれの好みの型がある。だから、好きになる相手というのは、どこかに共通点があるんだろう、……おまえいつか好きになった娘でもあったんじゃないのか」

「冗談じゃありません、よして下さい」

「それならいいさ」と竜右衛門が云った、「おまえには安永つなという、許婚者がいるんだからな、ほかの娘なんか好きになっても、母さんが承知しないぞ」