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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

宅の主人よりもお上手のようでございますのよ」

「あらまあ、変ですわ。今日初めて私が承知致しましたのに」

と安子夫人は小首を傾げた。

「変でございますよ、私の方も。宅の主人はチョク/\嘘を申しますからね」

と内藤夫人も考え込んだ。

「宅のも嘘を申したのでございますわ。疾うに始めたのを今まで私に匿して置いたのです。尤も内藤さんと御一緒のことは申して居りましたが」

「今日も橋口さんへ上った筈ですが、村島さんは如何でございますの?」

「昼から上りました。矢張り御一緒と承わりましたわ」

「その辺は真正でございますね。村島さんは一昨日も橋口さんへお上りになって?」

「いゝえ、一昨日は牧野さんへ絵のお稽古に上りました。金曜の晩はいつも然う定っているのでございます」

「まあ! それじゃ話が全く違いますわ。私、又瞞されたのでございます。一昨日の晩は謡曲の後がお酒になったと申して、十二時頃大分酔って帰って参りました」

「けれどもお一人で橋口さんへお出になったのじゃございませんの?」

「いゝえ。私も謡曲にしては少し晩過ぎると存じましたから、念を押したのでございます。すると怖い顔をして、そんなに疑るなら村島君のところへ行って訊いて来い、さあ、訊いて来い、と私を睨みつけたじゃありませんか。