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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「どでどで、どでどで、どですかでん」
これは交叉する線路の四点の継ぎ目を、電車の前部車輪四組と、後部四輪とが渡る音であった。
突然、前方に不注意な通行人があらわれる。六ちゃんは足を停めて、右足の爪先で地面を叩きながら、がんがんがん、と警告のゴングを鳴らす。不注意な通行人は気がつかない。線路の上をまっすぐにこっちへやって来る。こういうのは殆んどよその町の人で、六ちゃんのことを知らず、六ちゃんの運転している電車や、その線路も見えないのだ。
六ちゃんは驚いてまっ赤な顔になり、慌ててけんめいに停車操作にかかる。
「あぶないぞ」
六ちゃんは喚きながら、左手でコントローラーをがちゃんとゼロに切替え、右手でブレーキのハンドルをぐるぐると、ありったけの力で廻し、上半身を反らせてうーっと緊めあげる。口でききき、とブレーキの緊る音をまね、その電車はかろうじて停車する。
「あぶないじゃないか」
六ちゃんは車窓から首を出し、赤く怒張した顔でその不注意な通行人を叱りつける。
「電車にひかれるじゃないか、電車にひかれたらどうしようもないじゃないか」それからしんけんな眼つきで睨みつける、「線路をあるくのは違反なんだ、田舎者はそんなことも知らないんだからな、ほんとに、気をつけなくちゃ困るじゃないか」