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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
かれらには関係のないことなので、まもなく噂さえもしなくなった。
九月の暑さが終り、十月もすぎた。彼は毎夜十一時ころに、「のんべ横丁」へゆき、残飯を貰い集めて帰ると、小屋へもぐり込んで独りで寝た。朝になると、小屋の外で独り食事を済ませ、例の三重の古鍋を洗って、「のんべ横丁」のおでん屋「花彦」のかみさんに預けたのち、一日どこかをあるきまわったり、小屋へ帰ってごろごろしていたりした。
そのうちに、子供の代りができたのだ。
十一月にはいっていつのころからか、足の小さな犬の仔が、彼についてあるくようになった。生れてほんの四、五十日経ったばかりだろう、黒と白のぶちで、雑種だが四肢が太く、こまっちゃくれた利巧そうな顔つきをしてい、彼のゆくところにはどこへでもついていったし、小屋へ帰るといっしょに寝るようになった。
「そうだ、そういうわけだ」彼は街をあるいてゆきながら、無意識に独り言を云う、「――待てよ、そうとばかりも云いきれないんだな、うん、そうでないこともある、簡単じゃないさ」
仔犬は彼の足に身をすり寄せるようにして、ついてゆく。ときどきそのこまっちゃくれた顔をあげて彼を見、そうですね、ほんとにそうですよ、とでも云いたげに尻尾を振る。