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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「なんでも年に一度か二度はそんな日があるんだそうです」と徳さんは云った、「――女の身で、そうてえした学があるわけでもねえのに、くに子っくれえ神さまや仏さまの数をふんだんに知ってる者もねえもんだ、あんなに信心ぶけえ者もめったにゃねえだろうな」
たんば老人はゆっくりと、「若いのに珍しいな」と云った。
「いやもう、おっどろいたよ、たんばさん」と次のとき徳さんは云った、「――くに子のやつが、また信心の話なんだが、十五のとしだってえが用達しにいった、なんの用だったか忘れちゃったそうだがね、こう、ずっとあるいてゆくてえと、おっそろしく立派な、柱や欄干なんぞまっ赤に塗った、べらぼうにでっけえ建物の前へさしかかった、それがあんまりきらびやかでこうごうしいから、くに子のやつあ肝をつぶして、われ知らず両手を合わせておがんじまった、それから通りかかった人に、これはなに神さまのお社かってきいたところ、その人のほうでもびっくりして、これはあんた歌舞伎座ですよって云われたんで、くに子のやつあもういちど肝をつぶして逃げだしたんだそうです、ええ」
そんな、十五くらいのとしから、くに子はそれほど信心ぶかかったのだと、証明するような口ぶりで云って、徳さんは誇らしげに顎を撫でた。