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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「毎晩のことさ」と徳さんは云った、「そのうちにおめえ、とんでもねえ日にぶっつかった、くに子のやつあ妙な暦みてえな本を持っていて、それを繰っちゃあ今日はなにさまの日に当るか、ってえことを調べるんだが、その、とんでもねえ日ってのがおめえ、どっちを頭にしても、足の向く方角にはみんなそれぞれの神だか仏だかがいるってんだ」

たんば老人の顔にゆるやかな微笑がうかび、ゆるやかに消えた。それはたいへんだったろうな、と老人は同情するように云った。

「くに子のやつは寝ることができねえって泣きだした」と徳さんは続けた、「東西南北、どっちのほうにもなにかが頑張ってるし、どいつもこいつも記念日みてえな日に当っていて、どれ一つ失礼していいようなやつがねえってんだ、つまり寝るのに足の向け場がねえわけさ、あっしゃ云ってやったね、ようくその暦みてえな本を繰ってみなってさ、東西南北、どっかに隙のねえ筈はねえ、警察の非常線にだって隙はあるんだから、ってね、そうでしょうたんばさん」

それがだめなのだ、とくに子は云った。どっちの方角もぜんぶ塞がっていて、一センチの隙もないという。徳さんは痺れを切らして寝てしまったが、夜なかに眼をさましてみると、くに子は古箪笥に凭れて、坐ったまま眠っていたそうであった。