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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

八田青年の危惧にもかかわらず資金調達はうまくいった。

「そうだろう、みんなぼくの子分同様のやつばかりだからな」

寒藤先生はおうように云ったけれども、調達のうまくいったことに自分で驚いたようすを隠すことはできなかった。

「大ビスマルクいわく、将たるものは戦術よりおのれの兵を知れ、さらば勝利はついにその手に帰すべしさ」先生は集まった資金を数えながらそう云った、「ぼくはあの三人には特別にめをかけてやったんだ、ちかごろのジャーナリズムは人情を軽視するというが、まだこういう人間がいるあいだは大丈夫だ、プレスキャンベーンはバックボンを失ってはいないぞ、――きみ、今日は祝杯だ」

その夕方、寒藤先生は八田塾生をともなって、中通りの「のんべ横丁」へ遠征し、屋台の鰻屋で鰻の頭を焼いたのを肴に、したたか焼酎を飲んで酔った。先生がいうには、蒲焼なんぞは、しろうとの喰べる物で、鰻っ食いは「頭と肝に限る」のだそうであった。

「大きな声では云えんがね」と先生は云った、「蒲焼にするほうはなきみ、養殖物を多く使うんだ、だからきみ、蒲焼はしばしばさなぎっ臭いことがあるだろう、ところが頭だけはそうはいかないんだ、頭はきみごまかしがきかないんだ、てんねん物はきみ鈎がはいってるからな、これはどうしたってごまかせないんだ」