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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

これは実際に先生の口からほとばしり出た言葉なのだ。労働者はそこでさらに二つ殴った。

「ゆうべはなにがあったんだ」明くる日、先生は八田塾生にきいた、「どうしてあの男はあんなに怒ったのかね」

先生はそっと頭を撫で、瘤に触ってみて眉をしかめた。左の頬骨のところと額にも、紫色の痣ができていた。

「ぼくはよく知りません」八田青年は頸のうしろを手で叩きながら云った、「ぼくは酔い潰れちゃって、屋台の脇にあった防火槽の中で寝ていたんです、すると先生が、――聞け万国の労働者だとか、祭壇のなきがらはだとか、大きな声でうたいだされたのが聞えました」

「それは違うな、それはきみの思い違いだよ。だってきみ、そいつはどっちも共産党の唄だろう」

「それで労働者が怒ったんです」

「違うなそれは、それはまったくあべこべだ、ぼくは仮にもきみ憂国塾の塾頭だぜ」

「ともかくあの労働者が怒ったのは事実です、ぼくはからの防火槽で寝ていたんで、詳しいことはわかりませんが、あの労働者は怒って、アカの国賊野郎とどなっていましたよ」

寒藤先生はゆっくり首を振り、片手で口から顎のまわりを擦り、仰向いて天床を見た。