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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

次郎の喉で泣きじゃくりの残りがひくっと音をたて、彼は手の甲で眼を拭いた。

「だっても、みんなが云うんだ、ずっとまえっから、ぼくたちはみんなとうちゃんの子じゃない、ほんとのとうちゃんはべつにいるんだって」と次郎は云った、「――ぼくだけじゃないんだよ、あんちゃんも花子も四郎も云われるんだよ」

父親はなだめるように笑った。

「人はいろいろなことを云うよ、とうちゃんのことだって、のろまでいくじなしって云ってるのを聞いたろう」良さんは喉で笑った、「――とんでもない、とうちゃんは力もあるし喧嘩もうまいんだ、小さいときには次郎の倍も喧嘩をしたし、一度だって負けたことなんかありゃしないんだよ」

良さんは左手のシャツの袖をまくって、二の腕を子供たちにみせ、そこに長さ十五センチほどの、茶色になった傷あとを示した。

「これはね、友達にナイフで切られたあとだよ」と彼は云った、「とうちゃんが小学校六年のときだったが」

そして彼は、受持の先生まで威すというクラス一の乱暴者を、どうやって叩き伏せたか、ということをしかたばなしで語った。ナイフで腕を切り裂かれながら、相手の鼻柱を殴りつけるところでは、子供たちは唇をひき緊め、身ぶるいをした。