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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

かつ子は伯父夫妻に育てられ、いまでも伯父夫妻と三人で生活している。伯父の綿中京太は五十六、伯母のおたねは五十七。かつ子は伯母の妹の子で、生れるとすぐ伯母に引取られた。詳しい事情はわからないが、その生みの母はかつ子を生んでまもなく、某商事会社の社長と結婚し、そちらにも三人の子があり、贅沢な生活をしているという。――かつ子を引取るとき約束したそうで、いまでも実母から伯父夫妻に、きまった額の仕送りがあるし、かなえという実母自身も、年に三度から五たびくらいは、この「街」へたずねて来るのである。

綿中京太はもと中学校の教師をしていたという。口だけは達者であるが、徹底した酒呑みの怠け者で、かなえからの仕送りはもとより、妻とかつ子の稼ぎまで、殆んど呑みしろにしてしまい、自分は仕事らしいことをなに一つしようとしなかった。

京太はなにごとにも分類学的な注を付ける癖があった。

「ぼくの酒は遺伝学のプレザンプルだあね」

「この魚は切身にして煮てしまったから、もはや動物学でなくして衛生学に属すらあね」

などというのである。彼は自分の容貌に大きな誇りをもっている。ことに横顔には絶対の自信があった。