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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

そして五十日ほど経った或る夜のこと、おたねは姪の躯の異常に気がついた。

ここの住民たちは殆んど銭湯へゆかない。例外はあるけれども、四季をとおしてたいがいは行水を使う。その日おたねは、仕事の賃銀を受取ったし、ずいぶん久しいことゆっくり入浴したことがないので、かつ子と二人で中通りの草津温泉という湯屋へいった。――そしてかつ子の裸姿を見てどきっとした。肉の薄い骨張った躯の、乳房がふくらみ、乳首とそのまわりが黒くなっていた。そして腹部もいくらかふくらみ、臍から下へかけての縦の筋も、はっきり黒みを増していた。

おたねはなにも云わずに、姪のようすを観察した。かつ子の日常には変ったところはなく、ただ食欲にむらが出て、ときどき一食ぬかしたり、一度に二食分も喰べたり、朝起きぬけに嘔吐したりするのが眼につきだした。

おたねは亭主に注意し始めた。夜半すぎに「鼠がうろうろしていた」などと、ねぼけたことが幾たびかあったのを、思いだしたからである。おたねが注意していることに気づいたのか、あれからは京太もへんなねぼけかたはしないし、かつ子に対しても妙なそぶりをするようなことはなかった。