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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
自分が妊娠していると聞かされたとたんに、かつ子の全身が固くちぢまり、躰液がしぼり出されて骨だけになるようにみえた。かつ子は口をあけ、歯のあいだから呼吸しながら、両手の指を力いっぱい握り緊めた。
「隠しておけることじゃないんだよ、どうにか始末をしなくっちゃならないんだよ、かつ子、誰だか相手を云っとくれ、え」
かつ子は答えなかった。伯母の言葉などは耳にはいらないのかもしれない。うつろになった眼で、前方の一点を凝視したまま、ふらふらと、伯母についてあるくだけであった。
おたねには相手の見当はついていた。日を繰ってみると、そのことのおこったのは自分の入院ちゅうであるらしい、そして夜なかの鼠騒ぎ。かつ子は夜も昼も休まずにはたらいているから、外でそんなあやまちをする隙はないが、家の中でなら機会はいくらでもある。ただ一つわからないのは、このところ五年以上も、京太が自分に触れず、女そのものを嫌い、避けとおしてきた点である。五十になるまではうるさすぎるくらい頻繁なうえに、安あそびをしたり、つまらない女にひっかかりして世話をやかせたものだが、その反動のようにぴったりと沙汰やみになり、呑み屋でも女っけのある店へは近よらないようになった。