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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「いまは諸事インスタント時代になったね」と一軒の問屋で彼は云った、「冷凍食品も流行で、たいていな魚肉が冷凍され、ビニール袋に入れて販売されている、ところで日本人ほどたやすく流行にかぶれる者もないが、飽きるのも世界一だ、このインスタント時代にはまもなくくたびれるだろうし、そうならないまでも山の手の屋敷町などの階級は、生きた川魚なんぞふだんでも手にはいらないから、持ってゆけばとびつくこと間違いなしだと思うがね」

「山の手ねえ」と問屋のおやじは云った、「ああいう人種はいったいに川魚なんかは嫌いだって聞いたがね」

「そりゃあ戦前のこったろう」春彦は確信のない調子で、だがはっきりと云い張った、「そりゃあ戦争まえのことだな、きっと、なにしろきみ」そこで彼は急に元気づいた、「なにしろいまはきみ、鮭や鰊が高級嗜好品になっちまった時代だからね」

問屋のおやじは、そう云えばまあそんなものだが、と煮えきらない返辞をした。

「しめたぞ、これは」その店を出た春彦は自分に云った、「専門の問屋でさえあのとおりだ、みんな知らないんだな」

「どうしてみんな、このことに気がつかないんだろう」