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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
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「あたしうちで温和しくしていれば、どんな大金持のところへもお嫁にゆけたのよ」と光子は云う、「それなのにさ、女学校三年のとき福田とれんあいしちゃって、身分が違うから親は反対するし、親類も騒ぎだしちゃってさ、五たびも家族会議をひらくって騒動でしょ、あたしめんどくさくなったから福田と駆け落ちして来ちゃったのよ」
「へえー、それじゃあ」とますさんが反問した、「福田さんも伊勢の人なんですか」
「あらいやだ、そこはいわく云い難しよ」
「あんたが女学校三年のときだとすると、福田さんはそのときはもう大学生だったのね」
「疑ぐりぶかいのね、あんた」光子はますさんのことを打つまねをした、「それもいわく云いがたしっ、人のローマンスの詮索なんかするもんじゃないことよ」
ますさんは子供のシャツの繕いに全神経を集中することで、辛うじて自己克服に成功した。
光子はすべてがこの調子であった。彼女の話には年代の差別もなければ、東西南北、前後左右、四季も、昼夜も、老幼の差もまったくなかった。
「福田がいまあんな仕事をしているのを、世間じゃなんと思ってるかしらって考えると、あたしほんとに可笑しくなるのよ」