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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

粒がはなれにくくなるんだ」

したがって、笊などとは比較にならない量が釜に付いて残る。これを二軒か三軒やって廻れば、五百グラムぐらいの米は確実に集まる、というのであった。

「こんなことぐらい知らないとすれば」と島さんは結論をつけた、「諸君はまだまだ本当の貧乏は知らないと云えるだろうね」

「あたしなんざ、恥ずかしいが」と小田滝三が云った、「まだ鉄の釜って物を使ったことがないんですよ、ええ、親の代からもう土釜だもんでしたから」

「そんなことがなんだ、めしは土釜で炊くのがいちばんうまいんだぞ」と寒藤先生がきめつけた、「いずれにせよ、男子たるものがめしのことなんぞに頭をひねくるというのはばかくさい話だ、島くん、きみはいまの政界をどう思うか、きみの意見を聞かしてもらおうじゃないか、どうだ」

小田滝三は水っぽい酒を啜りながら、いよいよせっぱ詰ったときのために、島さんの米を略奪する方法が嘘か本当か、一度ぜひたぬきの啓さんにきいてみなければならない、と考えていた。

岡田少年はときを計って、たんば老人の茶碗に酒を注いでやり、老人はにやっと微笑して頷き、黙ったまま、けれどもたのしそうに少しずつ啜りながら、みんなの話を吟味するように聞いていた。