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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

おるいさんは云った、「お医者が云ってたけど、心臓の弱い者には脂っこい物がなにより悪いんだってよ、丈夫な者でもそうだって、脂っこい物は血を濁らせて、濁った血が躯じゅうに廻ってかすを溜めるから、癌になったりよいよいになったりするんだってよ」

おるいさんは自分の言葉だけでは信用されないと思ったのだろうか、新聞紙から切抜いた「医療相談」の記事を亭主と娘に読んで聞かせた。要約すると、食事は低カロリーに、野菜を多く、米飯は少量、果物は好ましい。という内容であったが、その記事は高血圧に悩んでいる読者の投書に、なにがし博士の答えたもので、おるいさんはその部分は省いて読んだのであった。

「牛や馬をみてごらん、草だのわらを喰べるだけで、あんな立派なからだをしてるじゃないか」とおるいさんは云った、「――そうだ、象だって河馬だって草しきゃ喰べやしないだろ、それであんな大きなからだをしているし、みんな癌やよいよいになんかなりゃしないじゃないの、ね、そうでしょ、よいよいの象なんて見たことがあって?」

内職の手を動かしながら、慶三は無表情に頷き、ふきは、やはり休みなしに仕事をしながら、欠伸をかみころしていた。