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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
少し私が代ろうかっていったんだよ、とたんば老人がくり返した。そして、片手を柱のほうへ振って、一人じゃ骨が折れるだろうからなと付け加えた。
――おらげっそりしちゃった、と吉は惣さんに告白した。代ろうかなってたっておめえ、おらあなにも工事をしているわけじゃねえや、たんばさんはやさしい顔で笑ってらあ、一人じゃ骨が折れるだろうったっておめえ、骨替りをしてもらえるもんでもありゃあしねえ、それじゃあお願えしますってわけにいくかえ、おらあ手に持ってる刀と、傷だらけになった柱を見て、急にげっそりしててれくさくなっちゃって、しょうがねえからうちへへえって、あの日はいちんちふて寝しちゃったよ。
惣さんがその話をするときには、自分がくまん蜂の吉そのものにでもなったように熱を入れ、身振りや表情や声などに、可能な限りまで実感をあらわそうとするのであった。
たんば老は彫金師だと云っていた。若いころは莨入の前金具だとかキセル、簪などに素彫をするのが得意で、いちじは相当に名も知られたが、現在ではそういう品を使う者が稀になり、高級なコンパクト、帯留、簪、ペンダントなどを手がけている。