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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「それがそうじゃないんですよ、うちは借家だし、塀なんぞも毀れちゃってるしね、酒屋なんか勘定が溜まってるっていうんです、ええ近所ではそう云ってるんです」
中年の夫婦ぐらしで、旦那というのはしょっちゅう酒を飲む。客が絶えず来ているし、朝から夜まで酒を飲んだり、大きな声で議論したり、唄をうたったりする。或るときなどは、――と云いかけて、小田滝三は怒りのほうへ自分を引き戻した。
「そんなようなね、払い物をして逆に金を呉れるようなとくいなんざ、めったにあるもんじゃありませんや、それをあんた横取りしやがったばかりか、てめえがまぬけだから人に取られるんだ、ねぼけるないってぬかしゃあがった」
「そういう人間も世間にはいるもんでね」とたんば老は云った、「自分でやったことが恥ずかしいもんだから、反対に毒ぐちをきくものさ、こんなことを云うと自分の悪事をひけらかすようだがね、六、七年前のことだったかな、或る年寄が死んじまいたいと云って来たんだな、もうつくづく生きているのがいやになったからって」
親類もなし妻子もない、としは七十幾つとかで、昔は相当な商家のあるじだったが、当時は夜店で玩具を売っていた。