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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

お座敷てんぷらの、白っぽく、上品にとりすました揚げかたは、ばちがいだと下町の客は云う。狐色よりやや濃い色に、ぱりっと揚げたやつこそ本筋で、もともとてんぷらなんてやつはげて物なんだ、ちかごろは職人も客もそいつを知らねえからな、などと云うのであった。

とらはその「天松」のてんぷらがひいきだった。大きな店ではない、間口三メートル、奥行六メートルほどの広さで、入口の右側が板場、左が細長い土間で、テーブルが五つ、椅子がそれぞれ三脚ずつ置いてある。四脚置くと通路がなくなるからで、食事どきにははいれない客が、よく店の前で順番を待っていた。

主人は五十五、六、痩せた背の高い男で、顔だちは五代目菊五郎にそっくりだといわれていた。もちろんずっと古い客の評が伝承されたので、いまでは五代目の顔など写真でさえ見ることはないが、そういわれればそうかと、客たちは思うのであった。――息子は二十六、七、色が白く、痩せていて、父親によく似た顔だちであり、父親と同じように無口であった。ほかに出前や雑用をする小僧が二人、奥のことは不明だが、店には女っけはなかった。

材料の買い出しから下拵え、揚げるのも客へ出すのも、この父子できびきびとやっていた。