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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

には、ぶきみな凄みさえ感じられた。

「おっかさん、夜なべなんかおよしなさい、疲れますよ、――なんて云うんです」と辰弥は無表情に続けた、「肩を揉みましょうか、だとか、苦労しましたねだとか、おっかさんの夢をみて泣かない晩はなかった、だとかって、――そらぞらしいあまったれ声で、おっかさんおっかさんの云いどおしなんです」

明くる朝、辰弥が眼をさましたとき、兄はもういなかった。静岡のどこかに勤めているので、すぐに帰らなければならなかったのだ、と母は辰弥たちに語った。けれども実際はそうでなく、兄はどう云いくるめたか、母からうまく金をせびり取っていったもので、父が出張から帰ってくると、母とのあいだに初めて、かなり激しい口論がおこった。

その前後から、父の仕事はうまくいかなくなっていたようだが、躯も眼にみえて衰弱し、それをまぎらわすためだろうか、深酒を飲みだし、道傍に酔いつぶれているのを人に教えられて、母と辰弥とで伴れ帰りにゆくようなことも、幾たびかあった。

辰弥が十三になった年の冬、父は喀血をして倒れた。医者の診察によると、古い肺結核の再発で、すぐに入院しなければだめだ、ということであった。