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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
とたんば老人はタバコの煙をみつめながら云った、「たぶん、きわどい生活をしているからだろうが、どこかにぎらっとするようなものが感じられたね、しかし、それほど悪い男だとは思わなかった、なんだか気の弱い、人みしりをする性分のようにみえたがね」
「みかけだけじゃなく、することも云うこともそんなふうです」と辰弥が云った、「大きな声をだしたり、乱暴したりするようなことはありません、やさしい声でゆっくり話しますし、いつでも自分が悪いとか、みんなに済まないとか云って、すぐに涙をこぼすくらいです、それがあにきの手なんですから」
老人は火鉢のふちでキセルをはたき、火箸を取って、キセルの火皿をほじくった。
「ずっと昔のことだがね」と老人が静かに云った、「私の知りあいにひとり変った男がいた、かなり大きな商店の主人で、女中も三人、店の者もひところは十人以上使っていたかね」
その男は人使いが荒く、朝から晩まで口小言が絶えなかった。自分はなにもしないで、台所から店の内外まで、見てまわっては小言を云う、妻にも子供にも遠慮をしない。落語の小言幸兵衛はその男をモデルにしたのではないか、と思われるほどであった。