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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

「うちの息子がどうしたんですって」と母がとびだして来た。

「まあおちついて下さい」警官は片手で、なだめるような手まねをした、「本通り一丁目の交番から電話連絡があったんで、ぼくには詳しいことはわからないんだが、なんでも小型乗用車にはねられて」

「場所はとこです、けがは重いんですか軽いんですか」

「おっかさん」と辰弥が制止した、「静かにしなきゃだめだよ」

「とにかく電話連絡なんでね」と警官はひたすらメモをみつめながら云った、「場所はまあ交番に近いところだろうと思うが、けがの程度までは連絡では云っていなかった、中橋のそばにある仁善病院というのへ入院させて」

「病院へ、入院ですって」

「おっかさんったら」と辰弥はまた母を制止して、警官にきいた、「中橋の仁善病院ていうんですね」

「そういう電話連絡なんだ」

警官は初めてメモから眼をあげた。そして、このみじめな住居にすばやく視線をはしらせて、誰かすぐにゆけるかどうか、とあやぶむようにきいた。

「はい、すぐにゆきます」と辰弥が答えた、「どうもお手数をかけました、ご苦労さまです」

警官は挙手の礼をして去った。母は泣きだし、驚きのあまり立っていられないように、そこへ坐っておろおろと、長男の名を呼んだり、また泣きいったりした。