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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 页

青空文庫

数は求めない、ただ一人でよい、自分を知ってくれるもの、自分の力になってくれるもの、信じられるもの――それが欲しい! もう気が狂うほど、そういう人がこの身に欲しい!

笛。――ふた親のかたみの笛。――ああそれはここにあるが、処女の十七ともなれば、もう、冷たい一管の竹では防ぎ得ないものが育っている。もっと切実な、現実的な対象でなければ満ち足りない。

「くやしい……」

それにつけても彼女は、本位田又八の冷たい心を恨まずにはいられなかった。塗机は涙でよごれ、独りで怒る血は、こめかみの筋を青くして、ずきずきと、その辺がまた痛んでくる。

うしろの襖が、そっと開いた。

いつの間にか大寺の庫裡には暮色が湧いていた。開けた襖ごしに、厨の火が赤く見える。

「やれやれ、ここに居やったかいの。……一日暇をつぶしてしもうた」

呟きながら入って来たのは、お杉ばばであった。

「これは、おばば様」

あわてて敷物を出すと、お杉は、会釈もなく木魚のように坐って、

「嫁御」

と、いかめしい。

「はい」

竦むように、お通は手をつかえた。

「そなたの覚悟をたしかめた上、ちと話があるのじゃ。今まで、あの沢庵坊主や、姫路の御家来たちと話していたが、ここの納所、茶も出さぬ。