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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 页

青空文庫

七

殊にまだ二十歳前の未熟なうちから、年上の女と、こういう変則な生活をして来た青春が、いつのまにか、青年らしい意気に欠け、卑屈に萎み、依怙地に歪んでしまったのも、当り前だった。

だが! だが! 今日こそは。

「畜生、後であわてるな」

憤然と、自分を打って、彼は起った。

七

「出てゆくぞ、おれは」

いってみたところで、家は留守である、誰も止め人はない。

こればかりは遉に離さない大きな刀を、又八は腰にさし、そして独りで唇を噛みしめた。

「俺だって、男だ」

表の暖簾口から大手を振って出ても決して差しつかえないものを、平常の癖である、台所口から汚い草履を突っかけて、ぷいと外へ出た。

出たが――

「さて?」

足がつかえたように、白々と吹く春先の東風の中に、又八は目瞬いていた。

――何処へ行くか?

世間というものが途端に渺茫として頼りない海騒のように思えた。経験のある社会といえば、郷里の宮本村と、関ヶ原の戦のあった範囲よりほか知らないのである。

「そうだ」

又八は、また、犬のように台所口をくぐって家の中へ戻った。

「――金を持って行かなければ」

と、気がついたのである。

お甲の部屋へ入った。