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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 页

青空文庫

二

と呟いて、何十年間の道境三昧の廬を出て、京都紫竹村の鷹ヶ峰の陣屋で、初めて、大御所に謁したのであった。

その時、つれて行ったのが、五男又右衛門宗矩、その年二十四歳、孫の新次郎利厳が、まだ十六歳の前髪。

こう二人の鳳雛の手をつれて、家康に謁した。そして、旧領三千石安堵の墨付と共に、

「以後、徳川家の兵法所へ仕えるように」

と、家康がいうと、

「何とぞ、せがれ宗矩を」

と、子を推挙して、自分はまた、柳生谷の山荘へ退き籠ってしまった。そして子の又右衛門宗矩が、将軍家指南番として、江戸表へ出ることになった折に、この老龍が授けたものは、いわゆる技や力の剣術ではなく、

(世を治むるの兵法)

であった。

二

彼の「世を治むるの兵法」は、また彼の「身を修むるの兵法」でもあった。

石舟斎はそれを、

「これ皆、師の御恩」

と常にいって、ひたすら上泉伊勢守信綱の徳を忘れなかった。

「伊勢殿こそ柳生家の護り神ぞや」

口ぐせに、彼のいうとおり、彼の居間の棚には、常に、伊勢守から受けた新陰流の印可と、四巻の古目録とが奉じてあり、忌日には、膳を供えて祠ることも忘れなかった。

その四巻の古目録というのは、一名絵目録ともいって、上泉伊勢守が自筆で、新陰流の秘し太刀を、絵と文章で書いたものであった。