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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 页

青空文庫

真の父親の無二斎でさえ、この子を余り好かなかったのは、そういう所に原因していたらしい。その性質を撓めるために、無二斎がたびたび加えた武士的な折檻は、かえって、豹の子に牙をつけてやったような結果を生んでしまったし、村の者が、乱暴者と、嫌えば嫌うほど、この野放しな自然児は、いよいよ逞しく伸び、人も無げに振舞い、郷土の山野をわがもの顔にしただけではあき足らないで、大それた夢をもって、ついに関ヶ原までも出かけて来たものだった。

関ヶ原は、武蔵にとって、実社会の何ものかを知った第一歩だった。見事にこの青年の夢はペシャンコに潰れた。――しかし、もともと裸一貫なのだ、それがために、青春の一歩につまずいたとか、前途が暗くなったとか、そんな感傷は、今のところみじんもない。

しかも、今夜は思いがけない餌にありついた。野武士の頭だという辻風典馬だ。こういう敵にめぐりあいたいことを、彼は関ヶ原でもどんなに願っていたことか。

「卑怯っ、卑怯っ、やあいっ、待てえっ!」

こう呼ばわりながら、彼は、真っ暗な野を韋駄天のように駈けている――

典馬は、十歩ほど前を、これも宙を飛んで逃げてゆくのだった。