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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页
これに反して、偶然な回り合わせでフリージアの根だけはまだ見た事がなかったのであった。これまで花屋で鉢植えの草花などを買う時に、この花は始終に目をつけていたにかかわらず、いざ買うとなると、どういうものか、自分にはわからない不思議な動機でいつも他の花を買うのであった。品のいい、においのいい花だと思ってほしがっているくせに、いつでもそばの派手な花に引きつけられていた。それで彼はこれまで一度もこの花を自分の家の中に持った事もなく、それがどんな根をもっているかも知らなかった。ただそれが球根であるという事だけを単なる知識として知っていただけである。
今そう思って見ると、この球根はそれ自身でいかにも、花として彼の知っているフリージアに適切なものらしく思われて来た。彼は球根のにおいをかいでみたりした。一種の香はあったがそれは花のにおいを思い出させるものではなかった。
フリージアだとすると、どこへ植えたものだろうと思って考えていた。彼の過敏になった想像はもうそれが立派に生育して花をつけたさまを描いていた。某画伯のこの花を写生した気持ちのいい絵の事をも思い出したりしていた。