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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第一巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:どんぐり、科学者と芸術家、旅日記から、竜舌蘭、花物語、芝刈り、球根、簔虫と蜘蛛、ねずみと猫、物理学と感覚、先生への通信、病院の夜明けの物音、病室の花、丸善と三越、自画像、春寒、春六題、田園雑感、写生紀行、笑い、案内者、断水の日。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 页

青空文庫

自画像

四月の始めに山本鼎氏著「油絵のスケッチ」という本を読んで急に自分も油絵がやってみたくなった。去年の暮れに病気して以来は、ほとんど毎日朝から晩まで床の中で書物ばかり読んでいたが、だんだん暖かくなって庭の花壇の草花が芽を吹き出して来ると、いつまでも床の中ばかりにもぐっているのが急にいやになった。同時に頭のぐあいも寒い時分とは調子が違って来て、あまり長く読書している根気がなくなった。今までは内側へ内側へと向いていた心の目が急に外のほうへ向くと、そこには冬の眠りからさめて一時に活気づいた自然界が勇み立って自分を迎えてくれるような気がした。ちょうどそこへ山本氏の著書が現われて自分の手をとって引き立てるのであった。

中学時代に少しばかり油絵をかいてみた事はある。図画の先生に頼んで東京の飯田とかいううちから道具や絵の具を取り寄せてもらって、先生から借りたお手本を一生懸命に模写した。カンバスなどは使わず、黄色いボール紙に自分で膠を引いてそれにビチューメンで下図の明暗を塗り分けてかかるというやり方であった。かなりたくさんかいたが実物写生という事はついにやらずにしまった。