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かげをふまれたおんな
影を踏まれた女
岡本 綺堂
「講談倶楽部」1925(大正14年)9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,608 字 · 23 页
一
一
Y君は語る。
先刻も十三夜のお話が出たが、わたしも十三夜に縁のある不思議な話を知っている。それは影を踏まれたということである。
影を踏むという子供遊びは今は流行らない。今どきの子供はそんな詰まらない遊びをしないのである。月のよい夜ならばいつでも好さそうなものであるが、これは秋の夜にかぎられているようであった。秋の月があざやかに冴え渡って、地に敷く夜露が白く光っている宵々に、町の子供たちは往来に出て、こんな唄を歌いはやしながら、地にうつるかれらの影を踏むのである。
――影や道陸神、十三夜のぼた餅――
ある者は自分の影を踏もうとして駈けまわるが、大抵は他人の影を踏もうとして追いまわすのである。相手は踏まれまいとして逃げまわりながら、隙をみて巧みに敵の影を踏もうとする。また横合いから飛び出して行って、どちらかの影を踏もうとするのもある。こうして三人五人、多いときには十人以上も入りみだれて、地に落つる各自の影を追うのである。もちろん、すべって転ぶのもある。下駄や草履の鼻緒を踏み切るのもある。この遊びはいつの頃から始まったのか知らないが、とにかく江戸時代を経て明治の初年、わたし達の子どもの頃まで行なわれて、日清戦争の頃にはもう廃ってしまったらしい。