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かれがころしたか

彼が殺したか

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页

青空文庫

続いて障子の倒れるような音が二階の方から聞えました。

お種は、危く叫び声を出しそうにしながら、あわてて夜着を引っかついで床の中にもぐりこみ暫く息を殺して居たのです。それから一寸経てから、こわごわ頭を出して様子をきいて居ますと、又々人の呻くような声がきこえて来ました。お種は我慢し切れなくなって、側にいぎたなく寝入って居るお春を叩くようにして起しました。お春も其の話を聞かされてはただ慄えるばかりです。二人はともかく、下僕を起そうと相談しました。

ところで、下僕を起すのには前にも申した通り、戸をくり開けて別の棟に行かねばなりません。雨のひどい此の深夜、此れだけの仕事は二人の女には非常な難事でした。それで二人は、廊下伝いに少し行った座敷に居るお客を起そうじゃないかという相談をしたのです。

二人は慄えながら、やっと大寺のねて居る室まで辿りついて、外から小さい声で大寺の名を二、三度よびましたが、答はありません。思い切って障子を開けて見ると、そこにねて居ると許り思った大寺の寝床は藻抜の殻なのです。二人は室の中にはいりながら呆然として居ましたが、この時丁度その室の上あたりの二階の座敷で人が仆れたような音がしました。