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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
二人は悲鳴を上げながらそこを飛び出して、夢中になって下僕仁兵衛を叩き起しました。四十何歳という血気盛りの、此の水兵上りの下僕は、いきなり大きなステッキを一本とりながらかけつけ、二人の女中を励まして二階へかけ上りました。
惨劇が、当事者以外の者にはじめて発見されたのは全く此の時でした。まっさきにかけ上った仁兵衛と、続いてこわごわ上って行った二人の女中とは、二階に上るや否や、ぞっとするような恐ろしい光景を見出したのです。
梯子段の突当りが夫婦の寝室なのですが、障子は真中から開けられて――寧ろ障子は一枚はねとばされて居たので――中ははっきりと外から見えるのです。座敷の一方には紫檀の机がおいてあり、其の机の上には電気のスタンドがあって、五燭位のうす暗い光りが室中を浮き出さして居ました。蚊帳は二所釣手がひきちぎられて一方にだらりと下り、切れた方は片すみに押しつけられて居ます。机の方を枕にして二つの床がとってありましたが、向って左の床の上に道子がねて居ます。否、血みどろになってうごめいて居たのでした。胸から上は素裸にされて、其の上を腰ひもか何かで後手にぐるぐる巻にされ、その端が咽喉にまきつけてありました。