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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
彼は美しい眉をあげながら、私と某貴族に対する深い感謝の意を表したのですが、同時に、事件に就ては全く期待してくれるな、という事を申しました。そうして、彼は凡ての場合に対して最早や、覚悟して居るから安心してくれ、なお彼がこの不名誉を抱いて墓場に行っても、悲しむ親はもはやないのだから、などと悲しい事をいろいろ物語りしたのでした。
今でもおぼえて居ますが、彼に最後に会った日は小雨の降った日でした。美しい眼差を時々空の方にやりながら、
「僕は覚悟はしてるんですから、安心して下さい。僕あね、あきらめてるんですよ」
と淋しく云って私に別れを告げた彼をあとにしながら、私は何とも云いようのない寂寞におそわれつつ、雨の中をわざと車にも乗らず一人とぼとぼと帰途についたのでした。
妙なものでそれでも私はなお望みを抛てませんでした。そうして又出来るだけ機会を利用して友田はじめ、仁兵衛等にも会いいろいろと訊ねて見たのでした、が之も結局何の得るところもなく、徒らに日は過ぎて、今はただ、公判廷に於ける被告人の陳述を、待つばかりになったのです。
成程、大寺は、検事の所でも、予審判事の前でも凡て罪状を自白して居ますけれど、未だ公判というものがあります。