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かれがころしたか
彼が殺したか
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页
「私、幸福じゃないのよ、ほんとうは。だって清三は私をいつもいじめるんですもの。私、夫から愛されては居ないのよ」
俺はもとより清三が彼女を愛しては居ないらしいという噂はきいて居た。けれども、道子から之を訴えられたのは此の時がはじめてなのだ。
「だって清三氏は、別段遊ぶわけじゃなし、他に女があるわけじゃなしするんだから、いいじゃありませんか」
俺はやっと之だけの事を辛うじて云った。
「あら、女ってものは夫がただそれだけだからって満足するものじゃないことよ。ねえ一郎さん、もしあなたが私の夫だったら、やっぱりそんな態度をとるつもりなの?」
俺は心が燃え上るような気がした。心臓がはげしくうつ。あの昔のスパルタで獣を盗んだ若人が、その恥をかくさんがため、獣を胸に抱いて、自分の胸の肉をくい破られるのを堪え忍んで居たという、あの苦悩を自ら味わって居るような気もちで、
「さあ」
と云ったきり黙って彼女の顔を見た。俺はただ恋の悩みにあこがれて居たのだ。愚かな男よ!
俺が燃えるような眼で彼女を見た途端、彼女の視線とバッタリ合った。と、道子は又燃えるような眼ざしで俺を見ながら、