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かれがころしたか

彼が殺したか

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,336 字 · 83 页

青空文庫

最早、疑う所はない。清三はたしかに俺と道子の間を疑って居る。少くも俺の事で道子が苦しめられているのではあるまいか。俺はそっと、しかしすばやく起き上った。この時の俺の気もちは全く騎士のようであった。悪魔に苦しめられつつある姫を救う気もちで、俺はすべるように室を出て二階に上って行った。

夫婦の寝室の外に立って内のようすを窺うという事は、世にも浅ましい事にちがいない。けれども俺のその時の気持は総てを神聖化すると云っていい位だった。俺は俺の為に罪なくして苦しむ女性を救いに行くのだ。そうだ、俺はそう思ってえんりょなく内のようすを探ろうとしたのであった。

夏の事ではあるが、其の室は廊下に面した方は障子が立ててあった。然しふと見ると其の端の方から中が見えそうである。俺はすばやく忍び寄って目をあてて内を眺めた。

丁度そこからは電気のスタンドがはっきり見える。それにてらされて、白い蚊帳を通して清三が全く床から起き上って稍々前こごみになって蹲っているのがはっきりわかる。俺がそれを発見した途端、

「貴様、やっぱり大寺を愛しているんだな」

と彼がつぶやくように云ったのであった。