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おそろしきつや
恐しき通夜
海野 十三
「新青年」1931(昭和6)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页
室内の先客である川波大尉と星宮理学士との二人が、同時にハアーッと溜息をつくと、同時に言葉をかけた。
「遅いじゃないか。どうしたのか」と大尉。
「あまり静かに入ってきたので、また気が変な女でもやってきたのかと思ったよ。ハッハッハッ」と星宮理学士が、作ったような笑い方をした。
「いや、遅くなった。患者が来たもんで(と、『患者』という言葉に力を入れて発音しながら)手間がとれちまった。だが、お詫びの印に、お土産を持ってきたよ、ほら……」
そういって大蘆原軍医は、入口のところで何やら笊の中に盛りあがった真黒なものを、さしあげてみせた。
「何じゃ、それは……」
「栄螺じゃよ、今日の徹夜実験の記念に、僕がうまく料理をして、御馳走をしてやるからね」大蘆原軍医はそう云ってから、笊の中から、一番大きな栄螺を掴みあげると、二人のいる卓上のところまで持ってきた。磯の香がプーンと高く、三人の鼻をうった。すばらしく大きい、獲れたばかりと肯かれる新鮮な栄螺だった。
「大きな栄螺じゃな」と大尉は喜んだ。
「軍医殿は、人間のお料理ばかりかと思っていたら、栄螺のお料理も、おたっしゃなんだね」と、星宮理学士が野次った。