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おそろしきつや
恐しき通夜
海野 十三
「新青年」1931(昭和6)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,092 字 · 30 页
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「一体どうしたというんだろう。大変に遅いじゃないか」
眉を顰めて、吐きだすように云ったのは、赭ら顔の、でっぷり肥った川波船二大尉だった。窓の外は真暗で、陰鬱な冷気がヒシヒシと、薄い窓硝子をとおして、忍びこんでくるのが感じられた。
「ほう、もう八時に二分しか無いね。先生、また女の患者にでも掴ってんのじゃないか」
腕時計の硝子蓋を、白い実験着の袖で、ちょいと丸く拭いをかけて、そう皮肉ったのは白皙長身の理学士星宮羊吾だった。
これは第三航空試験所の一部、室内には二人の外誰も見えない。だがこの二十坪ばかりの実験室には、所も狭いほど、大きな試験台や、金具がピカピカ光る複雑な測定器や、頑丈な鉄の枠に囲れた電気機械などが押しならんでいて、四面の鼠色の壁体の上には、妖怪の行列をみるようなグロテスク極まる大きい影が、匍いのぼっているのだった。
「キ、キ、キ、キキキッ」
ああ厭な鳴き声だ。
ホト、ホトと、入口の重い扉の叩かれる音。二人は、顔を見合わせた。
クルクルと把手の廻る音がして、扉がしずかに開く。そのあとから、ソッと顔が出た。
色の浅ぐろい、苦味の走ったキリリとした顔の持ち主――大蘆原軍医だった。