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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

電線はうなり、大木は風にしなって今にもへし折れそうだ。こんな日に出歩く物好きな人もいないと見えて、甲州街道は人一人歩いていない。トラックに一度行き違ったきり、円タクなどは影さえ見えなかった。

墓地の入口には両側に茶店が並んでいた。その一軒の前に車を停めて、

「小田切大使のお墓はどこでしょうか?」

と運転手が窓から首を出して訊いてくれた。

「まだお墓はありませんよ。事務所へ行ってよく訊いてごらんなさい」

長火鉢の前にいたお神さんは、煙管で事務所の方向を指しながら、親切に教えてくれた。

「お参りなら、管理事務所に頼んで、納骨堂に案内しておもらいなさるとよござんすよ」

教えられた通り、管理事務所の扉を開けた。机を前に調べものをしていた管理人に来意を告げて納骨堂への案内を頼んだ。洋服を着た管理人は無言で立ち上って金庫から合鍵を取り出し、先に立って案内してくれた。納骨堂は別棟になっていて、椎や樫の老樹の間に、まるで土蔵のような形に建てられてあった。コンクリートの長い廊下を伝って、入口の方へ曲ろうとした時、参詣をすませて帰るらしい若夫婦と擦れ違った。

女の方は小造りで、目立たない極くありふれた格好の人だが、男の方は素晴らしく奇麗だ。