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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
無政府主義に至っては固より始めから個性生活の絶対自由をその標幟としている。
社会主義はダーウィンの進化論から生存競争の原理を抜いてその主張の出発点としたことは前に述べた通りだ。クロポトキンはこれに対立して無政府主義を宣言するに当り、進化論の一原理なる相互扶助の動向を取ってその論陣を堅めた。両者共に、個性から発して動植物両界の致命的要素たる本能であるとせられている。一方の主義者は生存競争の為めの相互扶助だと主張し、一方の主義者は相互扶助の為めの生存競争だと主張する。私はここで敢えて主義者の見地を裁断しようとも思わないし、又私の自然科学に対する空疎な知識はそれをすることも許しはしない。
然し私はこういうことを申し出して見たい。ケーベル博士がそのカント論に於て「生物学に於て取り扱われる動物本能は、畢竟人間にある本能の投影に過ぎない。認識作用が事物に遵合するのではなく、却って事物(現象としての)が認識作用に遵合するのである」といった言葉は、単に唯心論者の常套語とばかりはいい退けてしまうことが出来ない。そこには動かすことの出来ない実際的睿智が動いているのを私は感ずることが出来る。