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おしみなくあいはうばう
惜みなく愛は奪う
有島 武郎
「有島武郎著作集 第一輯」叢文閣、1920(大正9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,397 字 · 159 页
それなら何故今でも教壇の上からやむことなく犠牲の義務と献身の徳とが高調して説かれなければならないのだろう。神は嘗て犠牲を払い献身を敢えてしたか(基督教徒はここで基督の生涯を引照するだろう。然し基督の生涯が犠牲でも献身でもないことは前に説いた)。然るに現在教壇からは、神にないものが人間にあらねばならぬとして要求されているのはどうしたことなのか。私はそれが人間性の根本に対する理解の不十分から来ているのではないかと疑う。そしてその疑いに全く理由がないではあるまいと思う。神人合一という概念だけは自然の必要から建て上げられた。それは政治に於て、専制政体が立憲政体に変更されたのとよく似ている。その形に於ては或る改造が成就されたように見える。立法の主体は稍移動したかも知れない。しかも治者と被治者とが全く相反した要求によって律せられている点に於ては寸毫も是正されてはいないのだ。神と人とは合一する。その言葉は如何に美しいだろう。然しその合一の実が挙がっていなかったら、その美しい空論が畢竟何の益になるか。
私はかくの如き妥協的な改良説を一番恐れなければならない。それはその外貌の美しさが私をあざむきやすいからである。